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京都家庭裁判所 昭和32年(家イ)548号 命令

申立人 花井鶴(仮名)

相手方 花井太門(仮名)

参加人 青木二郎(仮名)

主文

一、相手方は別紙目録記載の物件につき本件調停終了にいたるまで売買、譲渡、抵当権設定等一切の処分、引渡その他占有の移転、伐採、搬出、代金その他之に代るべき物の授受をしてはならない。

二、参加人は別紙目録記載の物件につき本調停終了にいたるまで買取、譲渡、抵当権設定等一切の処分、引取その他占有の移転、伐採、搬出、代金其他これに代るべきものを授受してはならない。

三、相手方又は参加人が上記命令に違反したときは家庭裁判所は家事審判法第二八条所定の過料に処することがある。

(家事審判官 小林謙助 調停委員 浅井精三 調停委員 渡辺つるえ)

(別紙目録省略)

参照 (紛争の実情)

一、申立人は父亡左衛門母亡たみの第三女として出生、両親等の愛撫のもとに成長し○○県立女子高等女学校在学中、芳紀十八才で其分家戸主である相手方(従兄の続柄)と結婚し大正四年六月○日届出を了して爾来同棲し長男一郎外四男一女を儲けた。

二、相手方は其本籍地及県下○○○に於て広く石灰の製造販売並に植林事業を経営し、傍ら県村政にも参与し現に○○県○○○○○長の名誉職にある者である。従つて日常公私の事務に逐はれ家庭に在ることは殆ど稀であつた。

仍て申立人は其間、家業は固より、子女の教養と多数使用人の監督給与等一切を担当処理し小心翼々として過誤なからしめんことを希い夙夜励精内助の至誠を捧げ相手方をして毫未後顧の慮なからしめ家屋の増殖を達成していたのである。

三、然るところ青年時より終始婦人との情事関係に飽くことなき相手方は其長男一郎の妻弘子(大正八年十月○○日生)を特に鐘愛し同女の歓心を得ることにのみ専念し、同女は花井家に於て[小宛]然「女王様」の権勢を保有するに至つた。

相手方は申立人に対して「お鶴お前は弘子に女中として奉仕せよ、命に従はねば家には居させぬ」など怒号する外、深夜熟睡中、相手方及一郎は、申立人に馬乗りとなり両名にて鉄拳を振舞ふが如き暴行を加え、或時は申立人は暴力に因つて昏倒し医療を要したるなど重大なる侮辱と虐待とを加えたるのみならず且相手方は日用品購入の各商店に対し「お鶴は花井家の者でないから一切品物を売らぬ様にせよ、万一売つても代金は支払はない」との通知を発送して申立人の日用物必需品買入の途を断ち、他面日常生活費を支出することを肯ぜず、申立人をして悲境に呻吟せしめるに至つた。

四、相手方は昭和三十二年初期に於て豪荘なる邸宅土蔵及工場の外宅地約二千坪余、田畑約十町余歩、山林約二百余町歩を所有し近隣に比類なき巨富を有しているが、近時使途不明の支出金千数百万円に達し、猶ほ多数造林の売却を画策せる者である。蓋し是は相手方が無資力を標傍し以て申立人がなすべき財的要求を免れんとする奸策に外ならないのである。即ち相手方は常に近親者に対して「お鶴は裸でほり出してやるのだ」と高言しているより察知することが出来るのである。

五、既述の事実は全く申立人の人格と権利とを無視したるのみならず申立人に対し常に同居に堪えざる重大なる侮辱と虐待とを加え到底同居に堪え得ない所であるから申立人は涙を呑んで已むなく茲に離婚を決意したものである。

従つて申立人は其精神上に与へられた絶大なる苦悩に対する慰藉料と申立人が相手方との結婚生活実に四十数年間に営々蓄積したる花井家の家産中より申立人が将来生活すべき費用として相当額の財産分与とを請求する為め本件調停の申立を為す次第である。

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